月毎よむよむ

月毎の、お話と絵本

3月 長すぎる春休みの夕方。

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「長すぎる春休みの夕方。」
  文・表紙 夏萩しま

 

 


サワナリさんとこのご主人は、細くて黒のスウェットパンツをさらっと履いてる、お洒落な帽子の二十代のパパ。
ママチャリの前の赤ちゃんシートをアルコールで丁寧に丁寧に拭いている。

ママチャリの後ろには4歳の兄ちゃんがまたがって、ぶいんぶいーんとか言ってシートをガコガコゆすっていてる。
その足の下に潜って2歳の弟が後輪を回しながら、びうんびうんとか言ってる。

パパ、弟の両脇に手を入れ、しゅうううと離陸させ、前の席へボボボボボボと着陸させる。
シートベルトをカッシャアンカッシャアンカッシャアンと三点ロックしている間に、

兄、しょわっと飛び降りて、後輪をンガチャンンガチャンと回し始める。
パパ、今度は後部シートをアルコールで丁寧に丁寧に拭いている。

弟、前を睨みつけういんういーんとアクセルをふかし始める格好。

パパいかに足が長いといっても兄の頭を超す乗り順は避けて、自分が先にママチャリに乗る。
しばらくじっとしている。
もうひと息黙って待っている。
兄、いえっほうとか言うと同時に助走なしで後部シートに飛び乗る。
パパ踏ん張る、グググ。
弟、ういんういーんういーんとアクセルをいっぱいに上げる格好。

パパ、がっしゃん!とスタンドを一気に蹴って揺らぐ間も無くとろーりとろーりと発進。
弟、ういういういーと先頭を切って走る格好。
兄、やーっとぅったぁ誰かと戦っている。
パパ終始顔色変えず、ガニ股気味にママチャリをこいで進む。
兄、ついに立ち上がって、何かに変身し、ヒーローの決めポーズを決める。
パパ、用水路の脇の道を危なげなく低速走行している。
弟、前カゴに乗り移ろうと両手を目一杯伸ばしてつかむ。
カゴの上の黒ビニールゴミ袋が一気に膨らんで、リアルエアバッグになる。
パパ、左右に首を出して絶妙のバランスでそのまま前進していく。
兄、縄跳びを引きずって釣りを始める。

 

きっと、サワナリさんとこの奥さんは、若くて可愛くて自分では手早く何でもできる人で、だけどものんびりしてる人に対して、
早くしてッ!なんて怒鳴ったりしないママさんなんだろうねと、近所中、皆んなそう思っていますよ。
ええ、ええ。

サワナリさんを、応援していますからね。