8月　その鳥は、私と同じ名前

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「その鳥は、私と同じ名前」
　　詞　Aruzak-Nezon
　　ジャケット　夏萩しま

その鳥は、私と同じ名前
美しい羽を留(とど)めてはいけない

空から浴びた常夏(じょうか)の呪縛
嘴(はし)に溢れる楽(がく)の音(ね)よ

この花は、あなたと同じ名前
儚い色を手折ってはいけない

辛(から)くも出逢う古来の吟蕭(ぎんしょう)
揺れて彩る草の種(しゅ)よ

休息のときは同じ水に憩い
飛び立つ日は同じ空に散る

その鳥は私と同じ配色
同じ季(とき)を生きると誓う

それぞれの属す間(あわい)に
あなたは鳥
私は花
これ以上は無い

これ以上は無いと知って
なおも
100万年、200万年、いつか
また同じ夢を見るでしょう
あなたは鳥のままで
私は花のままで

raggiana 、reginae
ラジアナ、レギナエ
互いの名前を頼りに
巡り巡り逢うのでしょう

熱帯林の重く滴る湿度の中に、一瞬、空気を切り裂く鮮やかな羽ばたきが垂直に刺さった。そう見えたのだが、水辺には長い節を持った植物が恒久の静けさで群生しているだけだった。少し揺れたのは、極楽鳥花の尖った葉先でしかなかったか、生き物はそこに居ないと擬態しているように思うのだが。
視線を感じる、じっとりとした時間はもうどのくらい経つのか。向こうも警戒しているらしい、なりすました花と同じ姿をした極楽鳥は、きっとあの中に居るのだ。ひと目見たいと情感が高められ、もはやこちらから離れることはできない。そして、鳥もまたタイミングを失っているのかもしれない。
永遠とも思える情念のやり取りの中で、ふっと息を継いでしまうとき、大きく羽を広げ螺旋を描いて上昇し始めた、あれは、さっきまで花だった鳥だ(そうとしか思えない)。これまで味わったことのない情動に全身がぐらつく。この一生に一度に違いない情景を、できるだけ正確に記憶しようと焦る。ほんの何秒かの出来事。しかし、水辺に立つ花の印象が次々と重なって輪郭の曖昧な色の束となり、その覚えきれないラジカルな変化はほとんどが失われていった。この邂逅はもう二度と無い。抽象化された「逢えたことそのもの」だけが極彩色の記憶として残る。このことによって今後苦しむことになるだろう。そして、甘く濃い悦びを抱き続けることにもなるのだろう。

この重く暗い水辺の記憶が再び呼び覚まされたのは、氷見野ハオによって、深い森の透き通ったイメージへと変換されたときだ。まず、花と鳥は立場を変えて描かれるが、中心にあるテーマは揺るがない。そして本質からブレることなくもうひとつ変換される。カワセミ(翡翠)の素早いダイブ、鳥が水そのものと出会う、鋭く切ない物語が始まる。美しい緑青色の羽に空気を含み、水中へ気泡を連ねて挑む。その体を迎える水面、花萼を形どり花の姿を借りて迎える水面には翠色が煌めく。今生で、花は水となって鳥と出逢うのだ。もはや生き物同士でさえない、決してひとつにはなれない運命を一瞬で承諾する、鳥と水。

何度も出逢って、幾度も離れて、どうしても近づき過ぎて弾き合い、遠すぎて恋しく彷徨うように。また寄り添うものたちはこんなにも似ていて、いつまでも違う。互いを見ているのか、自分を探しているのか。微細な時間は永劫にリプレイする、そして答えはない。
その時はいつかの昔かもしれない。
今もまだいつかなのかもしれない。
不思議な巡り合わせがあるだけで、果てしなくまた何年も繰り返し繰り返す。知らないのに出逢ってしまう、そして次もまた必ず出逢う。そのときこの曲はまた流れるだろう。数々のバージョン違いを発表する、氷見野ハオの活動は、一言で決めつけられたくない真実へ向けて、ダイブを試みる翡翠の輝きと同質のものだ。

「翡翠」 - 央京ソラリス (feat. Lil Hyvää)

作詞: aruzak-nezon + 氷見野ハオ
作曲: 氷見野ハオ
編曲/演奏/編集/歌: 氷見野ハオ + Lil Hyvää [Guest]

君は鳥　僕は花
其々の属す間に
此れ以上は無い
さふ識つて尚も
又　祈り合ふよ
嘴に溢るる碧い樂の音よ
空から浴びた常夏の呪縛
揺れて彩る碧い草の種よ
辛くも出逢ふ古来の吟蕭
同じ水に憩ひ同じ空に散る
巡り逢ふ巡り逢ふ夢を視る
君は鳥　僕は花
其々の属す間に
此れ以上は無い
さふ識つて尚も
又　祈り合ふよ
同じ水に憩ひ同じ空に散る
巡り逢ふ巡り逢ふ夢を視る