月毎よむよむ

月毎の、お話と絵本

6月 ロゼッタ

 

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ロゼッタ」 文・表紙 夏萩しま


 ひーばーちゃんのおうちで、小さい頃から預けられて、いつもいとこのお姉ちゃんが先生みたいに色々教えてくれた。
 一番初めは、覚えてない。いつだったか、白いふわふわの何かを冷蔵庫に入れるところを見て、
「それなに?」と覗き込むと
「おからの蒸しパン、食べるときに、お醤油かお砂糖をかけるの」と説明してくれた。
「そんなん砂糖に決まってる」とわかりもしないのに言ってしまって、それでも後で冷えたやつを食べさせてくれた。醤油と砂糖のあいがけで。頭の中で初めて、おからとパンがひとつになった、それが美味しかった。お姉ちゃんはいつも本を読んでいたからいろいろ知っている。
 蓬を摘みに出かけたときは、帰ったらすぐに蒸して、団子の粉をこねたり、あんこの缶詰を開けたり、いろいろやらせてくれた。蓬団子を、おじいちゃん、おばあちゃん、二人のおばちゃんたち、いとこのお姉ちゃん、お兄ちゃん、私の分も入れて、たくさん作った。
「少し余ったから好きな形にしていいよ」と言われて、緑色の和式の形にしてこんもりとあんこを入れて喜んでいたら、真顔でじっと見つめられた。これは大人のいるところではしてはいけないことだと学んだ。

 それから、おむすびをいろんな具材で作るときに、アイデアを出させてくれた。
梅が入ったやつは、紫蘇の刻んだやつと白胡麻をご飯に混ぜる。昆布のやつは、しらすと青紫蘇をご飯に混ぜる。カツヲのやつは、ご飯に醤油を混ぜて海苔を巻く。全部採用されて出来上がった後、画用紙に絵を描くように言われて、好きなことなのでチャチャッと描いた。それから、作り方の説明文もと言われて書いた。お姉ちゃんはそれを束ねて糸で綴じてくれた。表紙にも絵を描いて、「おむすびの本」と題名を書いた。
「名前も書いて」と言われた。
「なまえのうえは?」と聞くと
「おむすびけんきゅうか、でいんじゃない?」
おむすび研究家。初めての料理本。幼くして本を作る喜びを知った私は、それ以来いろいろ研究を重ねて今に至り、なんでも美味しそうだと作ってみたくなるし、食べたらレシピがだいたい浮かぶようになった。お姉ちゃんは教え方も上手かったから、私はいろいろ作れるように育っていった。

 夕飯の支度はまだ明るい午後から始まるし、おやつはさらにそれよりも早くから作る。パンを焼くときは、寝かす時間とかで朝からとか前の日から始めている。だからいつも、パンが焼き上がるのは、明るい時間で、あったかい匂いも家中に溢れていて、少し焦げ気味の空気に満たされた豊かな記憶だけがある。焼き立てを割いて出来具合をみるとき、初めての湯気が上がってくる。良い香りのそれを、またふたつにして手渡され、師匠と共に確認する。パンをバラの花のように編んで形作ることは心を込める動作だ。そのパンを分け合うことは、たとえ小さい一切れでも、そのたっぷりとした何かを同じだけ持ち合うことだ。そしてそれは好きな人との気配を分け持つことと同じで、それは信じるということに近いものだ。
 根気強いお姉ちゃんのおかげで、私はその方法を知る大人になった。

 

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ロゼッタ」 / おなかグーグース

作詞:aruzak-nezon + 氷見野ハオ
作曲:氷見野ハオ


夕空を吸って走って 溜め息を吐いて歩いて
いつの間にか何もかも 半分こしてた頃

当たり前みたいに 欠片を千切って
手渡せば満たされてた
手をつないで 息を合わせたら
また二人笑顔になる

この日差しが変わっても 同じ速さで歩こう
何も決めずに出掛けたのに いつも通り散歩道
また少し立ち止まっても 同じ速さで歩こう
何も決めずに出掛けたのに 辿り着いた帰り道

この日差しが変わっても 同じ速さで歩こう
何も決めずに出掛けたのに いつも通り散歩道
また少し立ち止まっても 同じ速さで歩こう
何も決めずに出掛けたのに 辿り着いた帰り道

夕空を吸って走って 溜め息を吐いて歩いて
いつの間にか何もかも 半分こしてたこと
思い出すよ

 

【「ロゼッタ」動画はこちら↓↓↓】

ロゼッタ (帰り道Ver.) - YouTube