「銀のスプウン」
えとぶん アルザック・ネゾン
いっとう高い塔の上
ペタルカラーに風孕む
バーミリオンの夕暮れに
いつまでこうしていましょうか
螺旋階段、下りは怖い
登りつめてもみたい空
何があっても笑ってる
生まれながらくノンシャラン
ずっと緒をひくしゃらんしゃらん
鈴の音おりくる真夜中に
ほおいほおいと星拾い
入れ子細工の真ん中は
なあにが入っているかしらん
振っても振ってもわからんらん
「ひとつっきりの真実よ」
訳知り顏のマトリョシカ
銀のスプウンをくわえた子
ここなフェリーチェ生まれ来た
ハッティファテナ数えたら
明日もこうして今日になる
夕暮れどき、あたりは橙色とも紅色ともつかないグラデーションに遠く染まっている。街で一番高い塔の上に人影を感じる。強い風に体ごとはためいている姿には、いつも大きな翼があるように見える。あの高さから目の下に広がる街はとてもよく知っている場所、そして何ひとつ叶うことのない閉じた世界。
生まれながらにして あまり思い詰めない無頓着な性格なのに、色々なことが本当に、まあ実によく降りかかる。その割に私という存在は、ただそこに在るというだけで幸運に導かれている、それが不思議。
夜毎、銀の糸に釣られた三日月のブランコで、あどけなく歌うフリをする。それだけで過ぎてゆく日々、いつかは終わるの、知っている。でも次の世界へ羽ばたくのはまだ今ではないと、あの翼の人はあそこに立って私に告げているんでしょう。紫がかった紺色に変わった空を背にして、今日もいつしか溶けて消えた。
何が起きても同じこと。明日という日は明け方には今日という日になっている。私の夢?夢なんていらないわ。行く先は決まっているの。明日もまたここへ来て、風になぶられて、そしてまた行くか戻るか決めるのよ。それだけ。
衣装のまま風のバルコニーへ出て、思いの外たくさん重なった生地が風に煽られ、本体がどこにあるのかわからなくなるほどの巻き上がる風の中。口ずさむ歌を、これまた風に持っていかれる。出番の少し前にいなくなって、みんなは慌てているかもしれないけれど、ちょうど間に合うように戻ってドレスや髪を整えてもらい、出番には間に合うのが私。
ステージという停まった世界へ降り立つ前に、自分を風に持っていかせて空っぽになる。この儀式がないと逆に自分の命を持っていかれてしまうと思う。いつからこんなことを始めたのか、私の魂にとって大切な行動になってしまった。この世界の人は私の歌など聞いていない、私の表面しか見ていない、か見てもいない。いつでも誰とでも取り替え可能だから大丈夫。人前に出ることで自分の中身を取られないように、一旦風に預けると安心してステージに立っていられる。
あの翼の人が塔から飛び立つ日に、私もここを去るのだと思う。それまでは風の知恵が私を護ってくれる。なんと言っても「お前は銀のスプウンをくわえて生まれたんだよ」と言う声がずっと耳にある。昔語りであれ例え話であれ、願いであることは間違いない。人を願う気持ちは信じることで本当になる、真実かどうかは自分次第。違う?
銀のスプーン
作詞: aruzak-nazon + 氷見野ハオ
作曲/編曲/演奏/うた/編集: 氷見野ハオ
いっとう高い塔の上で
ペタルカラー 風を孕む
いつまでこうしていましょうか
螺旋階段、下りは怖い
登りつめてみたい空
バーミリオン 夕暮れ
スプーンをくわえて
真夜中 おりくる
星をすくった
いっとう高い塔の上で
ペタルカラー 風を孕む
いつまでこうしていましょうか
螺旋階段、下りは怖い
登りつめてみたい空
いっとう高い塔の上で
歌ったら 笑えたよ
明日もこうして今日になる
知ったような顔してる
ひとつだけど輝いた
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