月毎よむよむ

月毎の、お話と絵本

4月 トランスポゾン

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「トランスポゾン」

  文/Aruzak-Nezon     表紙/夏萩しま

 


笑い事ではないんです!
最高の相手と、最高の自分を作り上げて、遺伝子のいいところだけをより合わせて、完成するはずだったんですよ
未来の到達点も申し分なく、それはそれは理想的な2世を得られると、間違いなく
ところが、理論上は起こりうるけれどもまだ、なぜそうなるか解明されていないファクターXは、現実にはかなり頻発しているらしく、遺伝子のひとつが自由を持っているかのように勝手に交換してしまうのです
完璧を目指したのがいけなかったのでしょうか
完璧ということは、完全体ということで、安定した状態、変化の必要がないという形態ですよね
本当に望んだ姿は、それだったのでしょうか
何が成功なのでしょう、わからなくなりました

おかーちゃん、おれ、ショートショートかくよ
とちゅうでかんでんしてもえちゃうの、もええ

頭が、というか頭の中身がインスタントラーメンになってるような、(つまり発達していて進化型ではあるが下世話でポピュラーな思考を持つ言ってみれば理想的なバランス感覚の)この子は、何もかもズレてるのだけど、誰にも真似できない才能を発揮して、すでに生きることを楽しんでいるのです
これは、失敗例ではなくて人として幸せな成功例と言えるのではないか、しかし証明は難しいと思います


遺伝子のレベルで進化を選んだ彼は、その後世界規模の価値観を揺るがす大きな仕事をすることになる
そしてその後、彼は若くして全てを捨てジャガイモを作り始める
多くの人に惜しまれて現役を引退したが、彼の作品は長く世に残り後進の目指す星となった

 

若者が訪ねていくと、草取りや洗い物を手伝わせて、音楽や物語の話をしたがる彼らに美味いポテトフライをご馳走して、帰りにはジャガイモを持てるだけ持たせて返してしまうのです
もう何歳になったのか大人になって、初めからジャガイモ農家だったと言わんばかりの暮らしぶりです
それは、豊かな人生なのでしょうか、そうであればいい、遺伝的能力が指標100ではないことで、劣っているという即断を誰にできるのか、無限の考え方があると認めた方が人は豊かになるのではないでしょうか

多様な要素が互いに助け合ってバランスを保つその海のような揺れる基盤の上に、持てる力で最良の自己を積み上げてゆく生き物は、少し足りなかったり少し余ったりすることで逆に補ったり試行錯誤しながら新しい進化のチャンスを見つけるのではないでしょうか
この世代が気づいたきっかけに、その次の世代が応えてゆく、長い長い眠りの中でほんの少し浮いたり流されたりしながら、ただのマルではない姿になる瞬間があるのではないかと、そう思うようになりました、彼をみていると

 

ぽれとふあい、おいひくでけたよ

油はオリーブオイル、塩分は少なめに、一応気を使っているが、こだわりはそのくらい
まあ、食べ過ぎだけど、誰も止める人はいない
自分にとっての完全な自由を手に入れたらしい、つまりは人生の勝利者
長い長い一瞬を生きる知恵を持つ、新しい人類なのだ