月毎よむよむ

月毎の、お話と絵本

11月 ねむり王子

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「ねむり王子」 文・表紙 夏萩しま


 思い浮かばないんだろうな、私のことなんて。もつれたまんま、他のことに夢中。または死んでる、つまり死んだように眠っているに違いない。ちょっと目が覚めても、出かける支度の途中でまた溶け始めて、丸くなって沈んでいってるんだろう。眠っている姿はいつもそんな具合に途中の姿なのだ。
 そもそも眠り過ぎなのは気がついていた。こちらの世界よりも、どうも夢の世界が忙しいらしい。一人で戦っているんだろうか、気にはなるが気にするしかできない。実際、現実の方の宿題を眠っている間に解決する勢いで、次々と身の上に起こってしまう出来事をまるまる抱えて布団に乗る。眠るのに渾身の力を注いで、そして、重く重く沈んで当分帰ってこない。

 二人で買った時計は律儀に動いている。でも二人の時間はなかなか重ならない。こっちがずっと目を覚ましていたら、いつかは目が合うのだろうか、そういう訳でもないか。頼りになる魔導士や、気の強いお姫様、何かと役にたつ道具屋、そんな味方がたくさん働いてくれているならいいけど。
 交互に起きては、会えない日々になっている気がする。私のことを思い浮かべる暇があるなら、私が手助けできることがあるなら、聞いてみたいのだけれど。でもきっと、私の役目はこちら側なんだろうな。
 用事で少しだけ外へ出ても、ふと窓を見上げてしまう。今のこの1秒がもしかしたら、一致していて久しぶりに会えたかもと気にしてしまう。けれどもわかっている、そんな時は必ず眠っている。忙しいことだ。

 いつか全てが解決して目覚めたとき、今から何年も経っていて、あちらの世界の勇者は、きょとんとしたカエルに戻っているのかもしれない。こちらの世界ではカエルが本体で、やっと眠りから覚めるのだ。呪文を解くキーワードは私に託されている気がする。それが私のこの世界での任務なのだ、きっと。
 しっかり眠って起きたカエルが目覚めたとき、そのすっきりとした顔を見れるのは私だけだ。そして私たちが会える一度きりのチャンスなのだ。瞬きもせずそれからの世界を見続ける、透き通った瞳を見たいと思う。やがて、ぴょーんと跳ねてどこかへ行ってしまうその緑色に光る背中を、よく伸びた手足を、見送りたいと思う。私にとってこれが、アイトイウモノ、なのだ。

 

 

 

「煌妃ナトゥーラ」
詞 Aruzak-Nezon

掌の蕾に一雫
種も仕掛けも次々と開く、花びら
龍になるカエル?

最高だったかもの恋も
紅茶と一緒にフーフーしちゃう
ちょっと勿体無いけど
無駄とは言わないけど
もっと先に大切なことが待っている

望みが叶ったらそのあとはどうなるの?
めでたしめでたしから
ホントに始まる日常を
チャラチャラに散らかして
ぐだぐだを散りばめて
ファンタジーで埋め尽くせ

どこからかずっともつれてる
言葉に意味を追ってるだけじゃ
ずっと迷宮巡り
龍はカエルに還る
花は蕾に フリダシへ逆戻り

落差に翻弄され成長できるとしても
また次の今日も戦う
続く続く続っく日常を
チャラチャラに散らかして
ぐだぐだを散りばめて
ファンタジーで埋め尽くせ

時には止めてみる勇気と
唐突な展開を笑えば
自分の中のvivaceだけを
信じて!信じて!信じて!

前髪から大きくハズレてる
王妃のしるしを斜めに押し上げ
今日は今日
きっとうまくやるわ!

 

地下アイドルグループに提供予定のこの詞は、キラキラに溢れるように、揺れて弾けるように、懸命さが出るように書いた。
マイクロミニのスカートを元気よく跳ね上げて、長いツインテールの頂に、煌妃ナトゥーラと同じ、キャラメルのオマケみたいな小さい王冠を着けて、歌う彼女たち。
少し濁った11人のユニゾン、上手過ぎないのもご愛嬌。テクニックではなく、その生命力で、力一杯歌う姿に誰しもエールを贈りたくなるのだ。

お姫様は忙しい。いつでも強気で目の前のことを片付けなければならない。ちょっとしたインタバルに、ふと自分に還ったりしてたら、毎日の役割をこなしてはゆけない。
走れ!走り続ける私!今はとにかく愛を持って進むしかない。ひとりひとりに対して丁寧に。自分に正直に。ステージはいつも客席よりも下にある。それを忘れないで、ありがとう!を届ける。何度も!何度も!何度も!