月毎よむよむ

月毎の、お話と絵本

12月 年末のCHAI

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「年末のCHA I」
 文/夏萩しま 
 表紙/Aruzak-Nezon

 

年末の支度を始める頃、クリスマスの準備も一緒になってしまう変わった国で、もう何年もこの時期にCHAIのCDをかけている
真っ白いジャケットの凍った湖の上でスケートをして遊ぶ若い恋人たち、中国語の柔らかい響きが、私自身の夢見がちな頃の感覚、純粋でいられた日々の想いを、少しの切なさとポップなメロディで誘い出す
本当にもう今年は終わりなのか、本当に来年は来るのかという子どもじみた不安感をなぜか毎年持ってしまうこの季節に、それはちょうどぴったりと重なって、儚くもあるが確かな毎日があったと思い起こすことができるスイッチのように働く
しみじみと冷たい空気を吸ったり、指先を温める息の白い行方を追ったり、美しい冬の中でいっとき自分を振り返る規則正しい習慣だ
そしてこのアルバムを流すうちに、今年もあと少しだなあとか、雪は降るかな?、来年はどうやって過ごそうか、と年越し気分が盛り上がってきて無事に来年に着地できるように運ばれる

実際には買い物や料理などの楽しいことばかりではなく、いろいろな人たちに連絡をしたり、あちこちの大掃除をしたり、全体のスケジュールや面倒くさいこともたくさんあって、それらを気分よくこなすためにも、応援歌があると助かるという図になっている
時々、曲に耳を傾けるために、休憩のお茶を淹れたりお菓子をつまんだりして、こっちの方が長くなってしまったり、もよくあることで家族と過ごすいい時間だ
熱い焙じ茶、ミルクたっぷりの甘いベトナムコーヒー、急須に何度もお湯を足す青柑茶、スパイスの効いたチャイ、その時々で飲み物も選ぶ
一人のときはスコッチを落としてアイリッシュコーヒーを飲むことも、体が温まる
一服したら、さあ続きをやろうかな、という気持ちになれるし、CDをまた初めから流し始めると、年末特有の、なんだかやらなくちゃいけない感じがまた演出されて、毎年同じようにやるべきことは済ませながら毎日が続く
賑やかなクリスマスイブと小綺麗な元旦を迎えられたら充分幸せだと満足する、このやっぱり変な国で、もう長く同じアルバムを聴き続けている年末の私たちは、小さいけれど大切なものを知っているんだろうなと思う

 

 


CHA I ....烏龍茶のCMソング(1991年〜2003年)