月毎よむよむ

月毎の、お話と絵本

10月 真夜中のカーテン

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「真夜中のカーテン」                     文/夏萩しま 表紙/Aruzak-Nezon

 


   夜の動物園

橙色の明かりが薄ぼんやりと落ちてくる炬燵の上で
積み木を並べて動物園を作っていました
何度作っても
毎回新しいアイデアが出てきて
何歳までやってたのか
ずっと遊んでいました

裏山の木立がかさこそ言って
網戸に何か引っかかってパキッと鳴って
木枠の窓ガラスはごとごと揺れています
昼間は眩しいけれど
夜は騒がしい
コロコロコロコロ、虫の声も
そろそろ秋になります

引っ越すことになりました
みみずくが、ほほう、と言って
山犬がサクサクと歩いて行きました
古い絵本のような一間のお家から
積み木を持って行きました

 

 


   プレハブのおうち

家の材料一式と手伝いの若い人たちがトラックで乗り付けました
プレバブの家の材料がどんどん運ばれてて行きます
夕方になって、焚き火を始めました
いらなくなった木切れを焚べて
交代で火の番をしたり、ご飯を食べます
地面に毛布を敷いて、おむすびを食べたり、熱いお茶を飲んだり、子どもは危ないからここから降りちゃダメだ、と言われて毛布の上に座っていました
ワクワクして動き出しそうでした

今朝早くに
遠くの町で解体したばかりの家を
すぐにトラックに積んでここまで運んで
昼下がりにやっと到着して
またすぐに組み立てているんだと
お父さんが話していたのです
それがもう、骨組みができているのです

夜になって風が出てきたので
座っているところの風よけを作るのに
太い杭を打ち込んで、幕を張ります
火をどんどん焚くので暑いくらいです
みんなの顔が照らされて紅くなっていました
ほーい、どうー、はいっ、と太い声が行ったり来たり重なります
プレハブの家は工作みたいに組み上がっていきました

気がつくとなんとなく朝がうっすら
明ける前のようになっていました
みんなそれぞれのトラックや車やで休んでいたり、帰ってしまった人もいたようでした

朝の日が差して、ピカピカする水色の屋根の
新しい私のお家ができていました
昨日のことがどこまで本当かわかりません
寝る前に読む本のように半分くらいは想像かもしれない
おじいちゃんが手を怪我して手拭いで縛っていたのを確かめておけばよかったと思いました

その日の昼までに荷物を入れて住み始めました
こんなにすぐに引っ越せるんだとすっかり思い込んだまま大きくなりました

 

 

   半ドン

新しい家は、まだ水道がありませんでした

自転車の後ろに
ポリタンクを結びつけて
仕事帰りのお父さんとお母さんは
おばあちゃんちで水を分けてもらいます
交代で自転車に乗って水を運びました
みんなで水を大事に使っていました

半ドンの日は明るいうちから
たっぷりの水でお風呂を沸かしながら
アルミ箔に包んだ大蒜を釜戸に入れて
蒸し焼きにします
 そろそろ焼けたで、風呂も沸いたで
ほくほくの甘苦い焼き大蒜まるごとを
みんなで分けっこします 
 明日は日曜、遠慮せずに食べれるで

それからまだ明るいうちから
ざぶざぶお風呂に入って
お風呂のお湯を全部で
洗濯物をして
あとはゆっくり過ごしました

 

 


   真夜中のカーテン

夜中に目が覚めると
オレンジ色の小さな光の中で
布地から離れて浮かんでいた
模様が逃げ出す

ゆらゆら揺れる天体や
傾いでゆく建物や
次々と走り抜ける粒子を追いかける

カーテンの模様の中で迷子になりながら
いつのまにかまた
眠りへ溶けていった


押入れの奥深くにしまわれていた
子供のころのおうちのカーテン
大人になってからよく見ると
グラデーションに織られた布地が
光の具合で揺れて見えたのだとわかりました

種明かしはされましたが
夜中に目覚めてしまった
ちょっと不安な気持ちと
どきどきするような秘密の光景は
それだけでは明かせない
まだまだ謎の世界の感じを残しています

今でもこうして
このカーテンの下に寝転んで
薄目をあけて眺めていると
カーテンの物語が動き出すよう

ゆらゆら揺れるラングドシャ
傾いでゆくカステラ
次々と走り抜けるチョコボール
手当たり次第に手を伸ばせば
、、、、、、