月毎よむよむ

月毎の、お話と絵本

2月 遠雷

f:id:higotoni510:20240114170833j:image

「遠雷」

 文/夏萩しま  表紙/Aruzak-Nezon

 


目の端に一瞬光が入った気がした
ぼんやりした頭を持ち上げて、カーテンの隅をめくる
薄く灰色に広がった空
昼間ではある
目は覚めていたのだけれど焦点が合っていない

ぐるんぐるんごら

遠くで、空気が軋んでめりめり揺れている
音、というより振動
またさっきの鋭い光がすっと縦に走ったように感じた
今度も両眼ではっきり捉えることができない
小さく存在感のあるエネルギーは、濁った空のどこかで力一杯転がっている

ことさら乱暴に振る舞って見せるようなギザギザに伸びる光はどこにもないのに
重たく響いて届いているのは雷鳴だ

ぐるんぐるろあんごごーん

空気の塊が動いて音圧に押される
ぐぐ、ああ、なんだっけ
こんな感じの
とても胸が苦しいあれは
この辺りにあったんだがな
ぐーをして胃の上に置いて
しばらく待ってみる
必死に逃げてここまで帰ったような

雷が近づいていた
雨の降る匂いが温かさをキープして真横から一挙に運ばれてくる
雨雲は遅れているのか上空で蒸発しているのか、一粒も降ってこないまま
あたりは水の匂いに包まれた

どんごんぐんがらごんだーん
ががらごんがぐんごーん

雲と雲は喧嘩しながら迫ってくる
それこそ火花を散らして
地団駄を踏んで

頭の中はもう音圧で殴られっぱなしで
ぷるんぷるんと震えていた
何も考えれない
それがとても安心で
するに任せていた
答えを確認する、それだけを避けていられた


延々やりあった末に
まだ言い足りないという様子で

ぐるんぐんごんぐん
がらんがらだどん

でも少し気が済んだのか軽くなって
時々、

ぐっぐんぷぐんごん
どるんどどん

を繰り返しながらだんだん小さく
時々、
線香花火の終わりのような光の筋を、地平線の辺りに刺しながら
そして
やがて振動のない余韻だけになっていった


今日の雷は真上を通らなかったなあ
と感想を呟きながら元の姿勢に戻る
窓枠ギリギリのところでカーテンが翻って顔に当たる
雷のいるあたりを想像した

んごらんぐら

まだまだやってるのが小さく長く聞こえ続けた